ラグビーの歴史アレコレ(4)~ラグビーには15人制と13人制があり、その両方に7人制がある~「人数制ラグビー事情」

フットボール系エッセイ

各人数制フットボールの分岐史

国際ラグビーリーグ連盟(13人制ラグビー/1927年設立)に加盟している国数は(2023年度)68ヶ国。本部はロンドンにある。
ワールドラグビー(15人制ラグビー=ラグビーユニオン/1886年設立)に加盟している国数は(2023年度)128ヶ国。本部はダブリンにある。

13人制ラグビー(ラグビーリーグ)に反対する立場にあった南部イングランド人の最たる都市ロンドンにその本部があり、逆に、イングランド人に対して徹底抗戦を行い大英帝国からの独立を勝ち取ったアイルランドの首都ダブリンに15人制ラグビー(ラグビーユニオン)の本部がある。実に面白い。

ラグビー普及の歴史をお浚いします

前回までのフットボールの歴史を整理すると・・・

イングランドを発祥とするフットボール競技の源は、アッシュボーンで行われている「シュローヴタイド・フットボール(フットボール祭)」で、遅くとも12世紀から行われている伝統の祭り。
1848年。ケンブリッジ大学で、フットボールの統一ルール化が図られる(ケンブリッジ・ルール)。それに基づき設立されたのがフットボール・アソシエーション(FA)。ですが、フルコンタクト・フットボールの継続を主張したグループが1863年に脱退。ラグビーユニオン・フットボール(15人制ラグビー競技団体)を確立させた。
FAは、11人制のアソシエーション・フットボールのみの統括団体となり、アソシエーション・フットボールの事を、アイルランド人が「サッカー」と呼んだことで、日本でもこれをサッカーと呼ぶし、長い間、フットボール=サッカーと見ていた日本人も相当数存在する。
1871年3月28日。 最初の国際試合「イングランド対スコットランド」が行われた。当時のスコットランドは、ラグビールールを色々変更して職業化も図っていたが、敗北したイングランドは、「どうぞ、お好きなように」という心境だったかもしれない。ところで、その試合は、前後半50分ハーフで20人制だったとも云われる。スコアは、スコットランドが2トライ1ゴール、イングランドが1トライ。このゲームのスコアは、1対0。つまり、トライそのものには点数が付かない。トライはあくまでもゴールキックを得る為のトライ。トライ後にゴールを決めれば1点というルール。でもどんなルールだったにせよ、イングランドは負けた。これにより、アマチュア主義のユニオンvs職業化するリーグへと繋がって行く。
労働問題(試合日の選手に対する休業補償問題)に端を発し、更に、人数が集まらない場合も出来るラグビーを目指したスコットランド。その考え方に賛同した北部イングランドの選手やクラブは、スコットランドの選手やクラブと共に、13人制ラグビー・フットボール=ラグビーリーグ・フットボール団体を設立してユニオンから脱退(1895年)。
ラグビーリーグのきっかけになったスコットランド発祥の7人制ラグビー・フットボール(ラグビーセブンズ・フットボール)は、1883年から独自の公式戦が始まるなど、その普及は結構早く本格化していった。

13人制ラグビー(ラグビーリーグ)の特徴

15人制ラグビーをこよなく愛する人達にとって(多分、不肖私もその一人?)、「プロ」を自認する13人制ラグビーに対して違和感を持つ理由は、プレー中断タイミングの相違や、スクラムは組み合うがけっして押し合わない事などを筆頭に、選手の安全が重視され過ぎて(それは当たり前の事なのだが)フルコンタクト競技としての醍醐味がちょっと薄れている?と感じる事です。実際には、13人制ならではのスピードプレーの迫力は15人制を凌ぐものもあるけれど、簡単に言ってしまうと・・・

華麗なプレイを随所に魅せるのが13人制のラグビーリーグ
迫力あるパワープレイがふんだんに盛り込まれてるのが15人制のラグビーユニオン
リーグ(13人制)に於けるユニオン(15人制)との相違点
密集状態(ラック/モールなど)を排除して、常にボール(と選手)が動いている状態に重きが置かれている。つまり、真っ向から破壊する(防御する)プレイじゃなく、抜き去る(華麗に躱す)プレイを重視。これにより、重量やパワーなど体力に劣る人でも走力や俊敏性を活かせる。
オフェンス側のプレイヤーに対するタックルが成立するとすぐにプレイが止められる。つまり、タックルを受けても引きずって突破するとか、「助けに行くぞ!」みたいなことが起きない。だから、ユニオンでの醍醐味である”ボール強奪”(=ジャッカル)は有り得ない。タックルを受けた場合、ボールを持っていたプレイヤーは、すぐにボールを足下に置いて、ボールをキックして後方へ転がしてプレイ再開ことによって始まる(「プレイ・ザ・ボール」)。つまり、時間ロスを最小限に留めつつプレイヤーの安全を守る・・・せっかちで過保護?
オフェンス側のプレイヤーに対するタックルが6回成立すると攻守交代となる。即ち、6回目のタックルが成立した地点で攻撃権が相手に移る(相手チームの「プレイ・ザ・ボール」で再開)。必ず攻撃権を渡さなければならないので、5回目のタックルを決められた時点で、次の「プレイ・ザ・ボール」の際には、(相手を、自陣のゴールラインから出来るだけ遠ざける目的で)敵陣方向へボールを大きく蹴り込んだり、ドロップゴールを狙ったりする。これは、アメ・フトが4回目の攻撃でファーストダウンを奪えないと判断した際にパント攻撃に切り替えることに通ずる。要するに、10ヤード刻みがなく、(アメ・フトでは4回の攻撃が)6回の攻撃で攻守交替する、ラグビー版アメ・フトと見て取れば良いです。これが理解出来ないアメリカ人は、10ヤード毎に線引きした新しいスタイルのフットボール(アメリカン・フットボール)を始めて、しかもヘルメットなどで”防具・武装”した。
スクラムは押し合わない(ルール上押し合えない)ので必ずボールインした側が確保する。なので、スクラムの迫力は全くない。だから、プレイヤー達もスクラムになることを望まないからプレイが速くなる?ユニオンに於けるラインアウトプレイがなく、タッチラインをボールが越えた場合の再開はスクラムになる。スクラムはほぼ確実にボールインする側の有利に運ぶので、なるべくボールを外に出さないようになる。ラインアウトでのひと時の休憩が取れないので、余計に体力(持久力)を要求される。相手にボールを渡すとボールを奪う機会が限られるので、キック頻度は少ない。
トライの得点は4点。トライ後のコンバージョンキックでの得点は2点。以前の15人制でもこのような得点だったけど、15人制ではトライの得点を重視するようになりトライは5点に変わった。ペナルティゴールで得る得点が2点、ドロップゴールの得点が1点。ユニオンでは、ペナルティもドロップゴールも3点入るので、優秀なキッカーはスタープレイヤーになれる。
プレイヤーの背番号の順序がユニオンとは逆になっている(ユニオン=フォワード→バックスの順、リーグ=バックス→フォワードの順)。
スクラムでの押し合いやパワープレイを重要視しないリーグでは、バックスが7人でフォワードは6人。 ユニオンでは、バックス7人でフォワードが8人。
~~バックス~~
・ユニオンの9番(スクラムハーフ)は、リーグでは7番になる。
・ユニオンの花形でもある10番(スタンドオフ=司令塔)は、リーグでは6番。という具合になって、ユニオンの15番(フルバック)は、リーグでは1番になる。
・ユニオンでもフルバックはエースプレイヤーだけど、リーグではより一層その役目が重い。
・ユニオンの11番、14番であるウイング(ウイング・スリー・クォーター)は、リーグでは2番、5番であり、快速プレイが要求される。
・ユニオンの12番、13番であるセンター(センター・スリー・クォーター)は、リーグでは3番、4番になる。
~~フォワード~~
・ユニオンの1番、3番(プロップ)は、リーグでは8番、10番。
・ユニオンの2番(フッカー)は、リーグでは9番。リーグのフッカーは、”ダミー・ハーフ”とも呼ばれ、相手を幻惑させるプレイも要求される要でもある。
・ユニオンの4番、5番(セカンドロウ=ロック)は、リーグでは11番、12番。
・ユニオンの6番、7番(フランカー)がリーグには存在しない。
・ユニオンの8番(ナンバー・エイト)は、リーグでは13番(ルース)で、13番のルース・フォワードがロックと呼ばれる。
・ユニオンのナンバー・エイトも、リーグのルースも、共に攻撃と守備の切り分け判断して縦横無尽にフィールドを駆け回りカバーするキー・プレイヤー。全選手憧れのポジションとして共通する。

4回の攻撃でファーストダウンを奪って陣地を進めて行くアメ・フトが好きな人には、リーグ(13人制)は理解し易いと思います(と言っても、別ものには違いないけど)。反対に、ユニオン(15人制)にようやく興味を持ってアメ・フトもあまり見ない人にとっては、最初にリーグ見ると「聞いた話と違う!」と感じる人が少なくないかも、と言うより絶対に戸惑う。13人制が好きになるかどうかは感じ方次第であり、これ(13人制)はこれで絶対に面白い。
試合時間は前後半40分ハーフでユニオンと一緒。フィールドも、ゴールからゴールまでの縦ラインは100メートルと一緒だけど、横幅はユニオンが70メートル、リーグは68メートル。この2メートルの差は何?って思うけど、因みに7人制(セブンズ)はゴール間100メートルで幅70メートルとユニオンと一緒。リーグの68メートルの理由(謎)を不肖私は知りません。

日本のラグビー事情

日本の15人制ラグビー事情

「一般社団法人日本ラグビーリーグ協会」(13人制ラグビー協会のこと)というのが1993年に設立された。つまり、今から約30年前の1993年まで、日本人の殆どが、ラグビーは15人対15人でやるものと信じて疑っていなかった。なので「フィフティーン」という言葉がラグビーの代名詞となった。同時に、「一人は皆(15人)の為に、皆(15人)は一人の為に」というフォア・ザ・チーム、フォア・ザ・ワンの考え方と、「ノーサイドの精神」など、ラグビー賛辞(美化)も尽きなかった。が、あまりにもアマチュア主義に徹し過ぎて、日本のラグビーは資本の応援を受け辛くなり、経済的な発展には至らなかったのも事実。

日本では、FA(サッカー)も似たような状況にあったけど、オリンピック競技に採用されていたサッカーに関しては、少なからず海外の状況は伝わりやすかった。何よりも、奥寺康彦が1977年から1986年までの9年間をブンデスリーガで過ごした実績が大きかった。「日本人でも海外で活躍出来る」=「海外の選手を見たい」=「日本人選手の海外での活躍をもっと見たい」という声が高まっていき、「プロ・リーグ」誕生機運に繋がった。そして1991年にJリーグがが創設(リーグ開始は1993年)。中には、「すぐに終わる」などと揶揄する声もあったが、2024年現在、Jリーグが終わるような状況にはない。そして、Jリーグが出来た事に由る波及効果は素晴らしいものがある。多くの日本人選手が海外でプレーすることが現実化されたし、海外のスター選手がJリーグに来てくれることも珍しくなくなった。何より、日本代表がワールドカップに出場出来るような実力向上に大きく貢献した。凄い事です。

残念ながら、ラグビーのトップリーグ(15人制)は、観客動員力やイベント力、メディアの取り上げもとてもゞ、Jリーグの域にはまだ遠過ぎる。基本的には全て企業チームなので、チーム運営も会社の業績に左右されるし、多分ですけど、ラグビーだけをやっている選手はとても少なくて、ラグビー以外の時間は、所属企業で会社員の仕事をしているのじゃあいでしょうか。済みません、そこら辺の事情はあまり知らないから迂闊なことは書けません。

ですが、日本ラグビーは、ラグビーの国際的なルールにも助けられている部分がかなり多いけど、海外選手が日本代表としてプレーしてくれてほんとに強くなった。最初の頃は惨敗続きだったワールドカップでも、一大会で複数回勝利を挙げることも珍しくない。何と言っても、日本でワールドカップ開催出来るくらいになったからね(ちゃんとスタジアム観戦したよ、2試合だけだったけど)。寧ろ、Jリーグ以上に、外国人プレイヤー側からの日本のトップリーグに対する評価(見方)は高いです。日本国内でプレーしてくれる海外選手のレベルは、ラグビーの方が断然圧倒している。今年なんて、物凄いレベルの海外スター選手が何人も日本でプレーしてくれているからね。トップリーグ、観に行くべきです。

日本の13人制ラグビー事情

海外では、15人制と13人制の選手間交流(異動)も行われるなど、お互いの垣根(敷居)はだいぶん低くなっているように見えるけど、日本では、物凄く知られていないラグビーリーグ(13人制)なので、チーム数も観戦観客数も全然足りていない状態。なので、海外のような専業化(プロ化)などは程遠いようです。が、ラグビーリーグにも日本代表チームはあって、その愛称は「サムライズ」。1993年に協会が誕生して、翌年の1994年に結成されている。15人制ではちょっと、と思っている少年少女でも、13人制でなら日本代表入りを目指せるチャンスは十分にあるかもしれない。また、フルコンタクトが基本のラグビーですが、老若男女、安全に楽しくプレイ出来ることを目的とした「タグラグビー」というのも行われていて、ラグビーという競技に少しでも多くの人が触れる機会を作ろうとする動きは、寧ろ、13人制のラグビーリーグの方が積極的かも?

今現在の状況はどうあれ、日本でもアメ・フト人口が増えたように、ラグビーリーグ人口は増えて行く可能性を秘めていると思う。但し、代表チームに入って海外勢と戦うぞ!と思うのなら、ラグビーリーグでもフィジカル強化は欠かせない。(華麗なプレイが特徴と書いたけど、フルコンタクトスポーツであり、スクラムなど大勢で押し合わないだけで激しいタックルは迫力満点です。)

因みに、サムライズのワールドランキングは44位(ランキング対象51ヶ国)。まだまだ、「シンプルで分かりやすいスポーツ」としての普及を目指している段階にあり、この順位も致し方ない。しかし、パワー面では劣っても戦術と脚力で対抗出来るので、(競技人口さえ増えて行けば)15人制同様に、世界と戦える代表チームに育つ可能性は十分にある・・・かも?特に女子は、タグラグビーから入り込んだら、ストレス解消とダイエットになってとても良いかもです。

ラグビーリーグの世界

13人制ラグビーが、選手の安全を重視してパワーラグビーの醍醐味を薄くした理由は、言うまでもなく、北部イングランドやスコットランドに於ける職業化に端を発します。休業補償を認められずにラグビーユニオンと訣別した北部イングランドのラグビー選手とクラブですが、スコットランドでは7人制なども行われるなど「誰でも安全に楽しめるスポーツ・ラグビー」を確立しつつあった。

ラグビーユニオンでの、激しい肉弾戦を経験して来てその虜になっていた北部イングランドのラグビー選手にとって、スコットランドのラグビーはちょっと物足りない。でも、職業として認められるスコットランドのラグビー環境は羨ましくもあった。ラグビーを職業に出来ることを最優先した北部イングランド人とスコットランド人は、上述したように新たなルールを作って13人制ラグビーを始めた。勿論、基本はフルコンタクトなので激しいタックルもあるが、ラックやモール、スクラムなどで怪我をするリスクは減り、当然、怪我で選手生命を奪われたり、長期試合を休んで収入が目減りするという心配も減る。華麗な個人技に支えられるランニングラグビーや流れるようなパスラグビーは観客を魅了して、スター選手も現れるようになり、あっという間に人気スポーツとなっていった。

北部イングランドにラグビーの「プロ」が誕生している話を聞いた南部イングランドのラグビー関係者達も、ラグビーリーグに注目するようになり、15人制のユニオンでは体格的に不安という人達も、13人制ならばと、南部イングランドでもラグビーユニオンが普及し始める。

この動きに対して、伝統的ラグビー(ユニオン)に固執する人達は、ラグビーリーグの勢いを止める為にあの手この手を画策したが、同じような労働問題を抱える地域では13人制の方が圧倒的に人気を博し、特にオーストラリアでは、ユニオンプレイヤーを目指す以上にリーグプレイヤーを目指す人の方が増えた(※オーストラリアン・フットボール=オージーボールの話は別機会に)。特に女子でラグビーをプレイしたい人達は、13人制や7人制を好み、女子人気も手伝ってラグビーリーグは大成功の域にある。でも不思議なのは、発祥国とも言えるスコットランドはけっして強豪国とは言えない状況にある。

現在、ラグビーリーグと言えば、ヨーロッパのスーパーリーグ(1996年に発足。チーム数はイングランドに11、フランスに1の計12チーム)とオーストラリアのナショナルラグビーリーグ(NRL/1997年発足。チーム数16)の二つが双璧を成している。特にオーストラリアでのラグビーリーグ観客動員数は、ユニオンの比ではない(オージーボールの観客動員数は更に凄いけど)。此処に、スコットランドの名が無いこと自体、どういう事?と思う。

ラグビーリーグの世界的強豪国は、オーストラリア、イングランド、そしてニュージーランド。ユニオンでもライバル関係にある3ヶ国は、リーグでもしのぎを削っているが、ワールドカップ優勝回数でも圧倒している(12回)オーストラリアの強さが抜きん出ている。3回優勝のイングランド、1回優勝のニュージーランドと続くけど、意外なのは優勝こそまだ無いものの、2017年ワールドカップをオーストラリアとニュージーランドと三ヶ国共同開催したパプア・ニューギニア。15人制ではあまり目にしないけど、パプア・ニューギニアは、ラグビーリーグを国技にしている唯一の国でもある。オーストラリアやヨーロッパのプロリーグに所属している選手が少なくない。あと、更に意外なのはレバノン。レバノンのレベルは、スコットランド程度の強さを持っていて、日本代表がレバノンと対戦したら、多分、ボコられる。パプア・ニューギニアになんてとても敵わないし、オーストラリアなんて異次元のチーム。15人制とは比較にならないくらいの世界との差があるけど・・・頑張れ!サムライズ!!(因みに、オーストラリアン・フットボール=オージーボールの日本代表も「サムライズ」。)

長くなり過ぎたので次回へ。

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