インドの叡智、数の言語

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古代のインド人は、歴史書や地理書の類を後世に遺さなかったが、宗教観に大きく影響を受けたことが主な理由と云われる。

古代インドの知的エリート層(司祭階級バラモン)は、霊魂が、無限に輪廻転生することを信じて疑っていなかった。だから、現世の生涯時間(例えば今)などは、霊魂の一時的な通過期間に過ぎないという思考が身に着いていたらしい。随って、”彼ら”にとっては、(現世)の生涯期間に起きた出来事を書き記す行為などは全く意味を持たなかった。自分たちの偉業を未来に遺そうとか伝承しようとか思わない。実に不思議な人たちであった。

彼らには、現実を超えた先(つまり、死後の世界)を想像したり知ることの方が絶対的に重要だった。だからこそ、宗教に関わる文献だけは膨大な量を後世に伝えることが出来ている。そのおかげで、仏教国である日本の現在の姿もあるわけです。

この、何とも不思議なインドの思想を知るために、日本を含む世界各国の学術機関では、「インド哲学」や「仏教学」(「神秘学」のようなものも)の研究・探求が続けられている。

古代インドに誕生したサンスクリット語の技法等々を、「いつ」「どこで」「だれが」「いったいどうやって」編み出したのか、それも全く謎。だから、誰がインド発祥の天文学、数学、物理学、医学などの諸科学を発達させたのかも謎。

言わずもがな、ゼロを用いた計算法、十進法、それらを用いた位取りの計算法、数字表記法、その他、数字の表記法を発明したのは古代インド。やがて、インドはアラブ人に入れ替わり立ち替わり蹂躙されたが、インド発祥の多くの文化をアラブ社会は取り入れた。例えば、古代インドで発明された不完全な書記体系である十進法は、この数字システムが非常に有用であることを認めたアラブ人によって洗練された。アラブからヨーロッパへと伝わったそれは、足し算や引き算や掛け算や割り算の記号などが加えられ、近代的な数学表記の基礎となった。更に、科学の発展に欠かせない書記体系となって大きな進化を遂げる。但し、この書記の体系は今なお不完全なままなのだが、世界の最も有力な”言語”と成った。地球上の殆ど何処へ行っても、数字さえ読めれば何とかなる。そして・・・

「数字に強い人」、逆に「数字に弱い人」という表現もあるほど、数字は、人間の評価基準に欠かせない存在ともなってしまった。指を折って数える事しか出来なかったのがいつの時代までの事だったのかは知らないけれど、数字に基づくデータの誕生により、人の評価も数値的に下されるようになった。「数字に追われる」「数字と睨めっこ」「数字を頼る」・・・数字(それによって刻まれるデータ)の誕生は、人間の生活を大きく変えた。数字という書記体系と(インド人が)「0」を数字に用いたことが、数千年後の今、(0と1の世界=二進数による)コンピュータ社会の到来に繋がった。

===以下、『サピエンス全史』より引用===
ほぼすべての国や企業、組織、機関が数理的書記体系を使ってデータを記録し、処理している。数理的書記体系に翻訳できる情報はすべて、信じ難い速度と効率で保存し、普及させ、処理できる。
したがって、政府や組織、企業の決定に影響を与えたいと望む人は数を使って語ることを学ぶ必要がある。専門家は「貧困」や「幸福」、「正直」といった概念さえ数字に翻訳しようと最善を尽くす(「貧困線」「主観的厚生度」「信用格付け」)。物理学や工学といった分野の全知識が、人間の話し言葉からはほぼ完全に乖離し、数理的書記体系によってのみ維持されている。
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書記は人間の意識の下働きとして生まれたが、しだいに人間の意識の主人になりつつある。私たちのコンピューターは、ホモ・サピエンスがどのように話し、感じ、夢見るかを理解するのに苦労している。そこで私たちはホモ・サピエンスに数字という言語で話し、感じ、夢見ることを教えている。そうすれば、コンピューターにも理解出来るからだ。
===以上、引用終わり===

現在、様々な産業分野で人工知能を搭載したロボットが活躍している。AIロボット無くして仕事が出来ない、生活が成り立たない、国家運営さえままならない時代が来るかもしれない。中国では、AIアナウンサーも登場したようで、物凄い勢いで(見た目は)人間に近付いている。だから、「人間とは結婚しない!(AIと結婚する)」と言う時代の到来もそう遠くはないだろう。否、流石にそれはないかな。しかし、人とAIの結婚は無くても、AI同士の結婚とか理解不能なことが本当に起きそうな予感がする。

必要な技術だが、必要以上のモノを持たせると、人間不要論へ向かいそうな危険な匂いも漂って来る。
既に映像分野では、不完全な書記体系=コンピュータ言語によって生まれたAI作品が多く出回っている。ハラリ氏は、絶対に有り得ない話ではないと以下の文章を付記している。
反乱を起こしたこの書記体系を人類が再び手懐けようとしたとき、この書記体系はそれに反発し、人類を一掃しようと試みるのだ。

インドの女性達・・・インディアンの女性も入ってしまいましたけど・笑・・・そしてAIも入ってます。正確に区別出来ますか?

古代インドの宗教的思想に基づく偉い人たちは、自分達の「今」には重きを置かず、死後の世界を思い描き、そこでの(ユートピア的)第二の人生、永遠の人生を夢見ていたのかもしれない。いや、きっとそういう世界へ行けるものと信じて疑っていなかったのかもしれない。だから、まさか自分たちが導き出した数字・数学が、物凄い歴史を刻んで、人間以外のものにさえ人間的な命を与えようとしている現実が来ようとは夢にも思っていなかったでしょう。でも、夢にも思っていなかったようなことが、現実に起きようとしている。死後の世界どころか、永遠に少女のままとか、美しいレディーのままとか、そのままの姿で永遠の命を与えられるAI達が、年老いて朽ち果てる人間達を嘲笑う世界がもう目の前に来ている。それこそ、ホモ・サピエンスの歴史なんてものを何一つ必要としない世界。こういうのって人にとっては全然楽しくないことだ。だから、やっぱり人として正しい生き方をして未来社会に正しい時を渡さないと大ごとになるよね。

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